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「未審交感(みしんこうかん)」ということばを片山セミナーで習いました. 「未審交感」というのはあまり聞きなれない熟語で、広辞苑をひいても該当する単語は見当たりません. ネットで検索してみると、「未審」は仏教用語で「詳しくは分からない」という意味であることは判明しましたが、それ以上のことは分かりませんでした. . 「交感」というのは「心が通じ合う」ということなので、「未審交感」というのは「詳しいことは良く分からないが、お互いの心が通じ合う」という意味になりそうですが、詳細はよく分かりません. |
片山セミナーのノートをみると、患者と歯科医のコミュニケーションを考えるためにこの用語が出てきたようです. 患者さんは歯科疾患やその治療法を詳しくは知らない、歯科医は患者さんの考えや生活をよく知らない.そのような二人が出会うのだから、心を通じ合わせないと歯科治療はうまくいかない.心を通じ合わせるためにはコミュニケーションが重要になる、と当初は簡単に考えていました. ノートにも「未審交感」の下に「言葉はゆっくり話す」「患者とだけものを言う」「患者の言うことを聞いてあげる」というような記載があります.つまり患者さんと話し合いコミュニケーションをとる中でお互いの心を通じ合わせていくことが大切になるというように、片山先生の講義をとらえていたのだと思います. しかし、発表に備えて、いくつかの症例を検討して、過去の患者さんとのコミュニケーションを思いだしているうちに、「未審交感」の意味するものはもっと深いところにあるのではないかと考えるようになりました. 昔、デンタルハイジーンという歯科雑誌に、『私のところの衛生士さんは患者さんとコミュニケーションをとるのがうまくて、患者さんの愛犬の名前からその人の年収まで知っている、素晴らしいでしょう』と自分の歯科医院のスタッフを自慢げに紹介していた歯科医師がいました.しかし、その文章を読んだ時何となく違和感を感じました.その患者さんのプライバシーをいくら詳しく知っていても、コミュニケーションがとれているとは言わないのではないか、ましてやプライバシーのことをいくら知っているからといって心が通じ合うことはないと感じたからでした. 小学校1年生の娘の治療に付き添って来ていた母親から「私の治療もお願いできますか」という申し出がありました.今から20年以上も前の話です. 少し前から歯がグラグラするようになって不安で仕方がないので、診てもらえないかということです.口の中を拝見すると重度歯周病でした.いろいろ話を聞こうとしたのですが、とても口数の少ない女性で、私自身もコミュニケーションより歯科的介入に重きをおいていた時期だったので、十分な話し合いができたとは言えない状況でした. 当時から、重度歯周病は片山先生の「歯槽膿漏-抜かずに治す」を基に治療を進めていたので、「抜かずに治す」を読んでもらうことにしました.最初は貸し出して読んでいただいていたのですが、いつでも読めるようにと、ご自分で購入して熱心に読むようになりました.そして、当然長時間ブラッシングにも取り組んだのですが、ブラッシングを始めても相変わらず口は重いままでした.しかし、口で話す代わりに、歯肉が多くを物語ってくれるようになりました. 重度の歯周病を気に病み、何とかしたいと強く思い、そのためにブラッシングが有効であることを理解し、子育ての忙しい時間の中で何とか長時間のブラッシング時間を捻出し頑張っていることが、口ならぬ歯肉が物語ってくれるようになったのです. 患者さんが一生懸命取り組んでいる姿勢は歯科医師側の心を打ちます.私も担当衛生士もこの人のためにできる限りのことをしたいと強く願うようになりました.あそこにうまく歯ブラシの毛先が入らないと言っていたがこうしたらどうだろう、ワンタフトブラシにかえてみたほうがいいかもしれない、などと診療時間外にもその患者さんのことをしばしば考え、二人で話し合うようになりました. そして我々の熱意も患者さんに伝わり、患者さんもさらにブラッシングに励むようになるという好循環が生み出され、重度の周病はどんどん改善されていきました. 三者の心が通じ合った結果といえるでしょう. 現在でもこの患者さんは定期的に検診に通っていますが、歯周病で歯を失うことなく今日に至っています.そして、当時1年生の娘は、今では立派なお母さんになっています. 今回の発表では、当初、十分話をすることで心が通じ合えるようになるのではないかという図式を描いていましたが、言葉によるコミュニケーションの延長上に必ずしも心の通じ合いがあるわけではないという結論に達しました. 河合先生流にいえば、コミュニケーションは表層しいて言えば”自我”の部分で行われることで、心が通じ合うというのは深層すなわち”自己”に近い部分での交流ということになるのかもしれません. 「未審交感」の意味するところは、どのような仕事をしていて、どんな生活をしているという表層の部分は詳しく分からない、しかし深層で通じ合うことが大切だということを言っているのだと解釈するようになりました. 中村雄二郎先生は、”科学の知”の構成要素のひとつ”客観性”に対し、”臨床の知”では”パフォーマンス”をその構成要素とするとして、「“パフォーマンス”であるためには、行為する当人と、そこに立ち会う相手との間に相互作用が成立していなければならない」としています(*). 科学的根拠に基づいた歯科医療だけで臨床を進めようとすると、患者-歯医者間の相互作用、意思疎通は忘れさられ、多くのトラブルを引き起こしてしまいます.患者さんの“困った何とかしたい”という思いと、歯科医師の“大変だろうな、何とかしてあげたい”という心が通じ合う相互作用がなければ、歯科医療は成功しません. 片山先生が何を意図して1982年の講義でこの用語を持ちだしたのかは不明ですが、おそらく”医患共同作戦”の根底に”未審交感”という概念があったのではないかと推測しています. |
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