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抜いた歯は生えてきません.削った歯は元に戻せません。歯科治療は両刃の剣であることを理解して治療を受けてくださるようおねがいします.

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自然治癒力を考えた歯科治療



小西歯科医院では生体の自然治癒力を考えて歯科治療をおこなっています.

このページでは歯科治療と自然治癒力について考えてみたいと思います.


このページの目次
*むし歯と自然治癒力
*歯周病の炎症、歯周ポケット形成と自然治癒力
*歯の傾斜や挺出
*歯の動揺
*歯根破折と自然治癒力


むし歯と自然治癒力


第二ゾウゲ質の形成

 むし歯は細菌によって歯が溶かされる疾患ですが、むし歯で歯が損傷を受けたことを感知したゾウゲ芽細胞は歯の内側(神経の入っている壁)に第二ゾウゲ質を形成して歯の神経を守ろうとします.

 第二ゾウゲ質はむし歯だけではなく、アブフラクションとよばれる歯の摩耗(まもう)や、歯ぎしりなどで歯が咬耗(こうもう)したときにも盛んに形成されます.


治療後の痛みも自然治癒力が治してくれる

 むし歯の治療してインレーをいれたりレジンを充填した後に歯がしみたり痛んだりすることがあります.
 歯の神経にとってはむし歯で歯に穴があいたのも、治療で削ってゾウゲ質が削り取られてしまったのも、歯の損傷という意味ではまったく変わりありません.
 したがって、むし歯の治療が終わったのにまだしみたり痛んだりすることがあるわけですが、この場合も第二ゾウゲ質が形成され、その症状は徐々に軽減していきます.


歯周病と自然治癒力

歯周ポケット形成

 歯周病でおこる歯周組織の炎症は、血管が拡張し透過性を増し白血球をその部に遊走させることで、細菌の侵入を防ごうとする組織の防御反応としてとらえることができます.

 歯周病で歯周ポケットが形成されるのは歯と歯肉が接合している上皮性付着といわれる部分が免疫システムの誤作動(顆粒球過剰による組織破壊と考えられる)により傷つけられることで始まります.

 免疫システムの過剰反応により、歯と歯肉をつないでいる上皮性付着が傷つけられるとその創傷治癒のために上皮細胞が増殖して傷口をふさごうとします.

 このとき、上皮細胞は根尖の方向へ増殖していくのですが、根尖の方から上皮細胞は増殖してこないので歯周ポケットが形成されてしまいます.

 上皮細胞の増殖は自然治癒力の働きなのですが、それにともなう上皮の根尖側移動は皮肉にも歯周ポケットという病的な状態をつくりだしてしまうわけです.

歯の傾斜や挺出(ていしゅつ)

 重度の歯周炎で歯周支持組織が破壊されると歯は上に延びてきたり、横に倒れたりします.
 このような現象は、歯周ポケットを浅くしようとする、あるいは歯槽骨を安定させようとする生体の自然治癒力が働いくために起こります.

 歯が懸命に適応しようとして延びてきてしまったり、傾いてしまったりした歯を「補綴物を入れる邪魔になる」、「インプラントにした方がよい」といって抜いてしまっては、歯は何本あっても足りません.


歯の動揺(どうよう)と自然治癒力


 過剰な力がかかると歯は動揺しはじめますが、これは歯根膜腔が拡大するためです. 
 これも歯が過剰な力によって折れたり抜け落ちないようにするために生体の適応現象のひとつです.つまり、歯の動揺も自然治癒力のひとつといってよいと思います.

 歯の動揺が激しいからといって簡単に歯を抜いてしまうのは、歯を残そうとして頑張っている生体の自然治癒力を無視した行為ということになります.

 歯の動揺が激しい時はまずその歯にかかっている力のコントロールを行うことが自然治癒力の手助けとなります.

 力のコントロールとしては歯科医が行う咬合調整、歯冠形態修正、ナイトガードなどの処置とともに、患者さんが行う歯ぎしりや噛みしめなどの悪習癖の是正が不可欠になります.


歯根破折と自然治癒力


 歯根破折をおこした歯に自然治癒力が働いて元のようにくっつくことはまずありません.

 神経が健全な歯で破折部が再度くっついたという報告も無いことはないのですが、非常にまれなケースです.

 元に戻るという観点では、歯根破折の歯に自然治癒力が働くことはありませんが、視点を変えれば歯根破折でも自然治癒力が働いていることに気がつきます.


 それは歯根破折をおこした歯周組織の変化です.

 歯根破折をおこした歯は最初激しい痛みを呈し、その後膿瘍を形成することが一般的ですが、破折部が時間とともにはっきりとしてくるに従い、膿瘍をはじめとした諸症状は消失してしまいます.

 私たちはこの変化も自然治癒力の表れとしてとらえています.
 
  膿瘍の主成分は白血球(顆粒球・好中球)の残骸です.

 膿瘍はヒビの入ったところから細菌が侵入しようとするのを防ぐために局所に集積した白血球が自ら活性酸素や酵素をだして自壊したものの集まりなのです.

 つまり、膿瘍の形成というのは細菌に対して生体の防御作用が働いた結果という側面があるわけです.

 よく「バイ菌が身体の中に入り込んで膿をもつ」という表現をする歯科医がいますが、歯周病でも根尖病変でも歯根破折でも、生体の中に細菌が侵入しているわけではありません.

 細菌が侵入しようとする部位では破骨細胞の働きにより骨を溶かし、白血球が浸潤するスペースをつくって細菌の侵入を防いでいます.
 したがって、身体の中に細菌が入り込むことはほとんどありません.

 まれに運動性の細菌が歯周組織に入り込んでいることがありますが、これは潰瘍部分からたまたま紛れ込んでいるもので、かなり特殊な状況だと考えてよいと思います.

 歯根が破折したときに、あわてて抜歯しないで経過を観察していると、破折部を軟組織が埋めて膿瘍は消失していく傾向になります.

 歯根破折に対する膿瘍の形成もその消失も自然治癒力の表れと解釈することができます.



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